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伊藤雄二郎のさわやか系心理学


14、 蘇る神話的ビート、パート4

コール・トゥー・アドベンチャー(冒険へのいざない)

平和な眠りを破る呼びかけ

Paradise can´t last. 「天国はいつまでも続かない」
私の心理学の指導教官だった、ローナ博士の言葉である。現実社会を生きる私たち誰もが意識の深い部分でこの言葉のエッセンスを理解している。なぜなら人類は、一人の例外もなく平和な眠りが破られる瞬間を何度も通過してきているからである。

それはまず誕生の瞬間に起きる。

母胎というあたたかいぬくもりに守られた空間での平和な眠り。誰もが心の奥底に記憶している十全な平和に満たされた時間。だがその状態が永遠に続くことはない。誕生の瞬間に平和な眠りは破られ楽園との離別がやってくる。

楽園からの追放はこの世における新たな神話的ジャーニーの開始の合図となる。新しい生命がこの世界からのコールを受け、ジャーニーがスタートしたのだ。

楽園との訣別

神話的世界における「コール」は平和な王国を脅かす予兆、腹心の裏切り、王の病、王国の政治の腐敗といったマイナスの状況を通してやってくる。神話的世界において、楽園や王国との訣別は主要なモチーフのひとつであり、それによってヒーローズ・ジャーニーが開始されたことが暗示される。
神話的世界における「コール」とはヒーローに対する、ジャーニーを通しての変容を要請する呼び声である。

コールを受けジャーニーを開始したヒーローは元通りの楽園に戻れないことは知っている。だが楽園の記憶は決して消えることはなくヒーローの意識の深層で息づいている。楽園の記憶の息づかいはヒーローが死をもって源に還るまで、ヒーローの意識の深層でリズムを刻み続けその生涯を彩る。

もしも、人が実人生において自分の物語を発見するためのジャーニーの開始を望むのなら、人は住み慣れた楽園を後にするという選択を迫られる。

人間というのは奇妙な生き物である。変化を望み、新しい自分に生まれ変わることを熱望しながらその一方で、古い習慣からの脱却を拒もうとする。だが、人は二つの椅子の間に座ることはできない。

住み慣れた楽園とは、自分にとって住み心地の良い古い自己イメージを意味する。楽園を後にすることは、古い自己イメージとの訣別を意味する。

誰もが自分を善人と思いたい。だが、神話的ジャーニーを通過する中で人は、何度も自らの闇と対峙する。闇との対決を通過する中で、その都度彼の自己イメージは更新されその行動も確実に変容を繰り返す。

その結果として現実世界において、彼は職場やコミュニティーとの離別を経験するかもしれないが、それはあくまでも結果である。楽園との離別は必ずしも文字通り職場からの離脱や離婚を意味するわけではない。念のため。

古い自己イメージの死

実人生においても、自己の本当の価値を知るための神話的ジャーニーは、しばしば病気や人間関係の不和、共同体との離別や、何らかの喪失という我々にとってありがたくない形でやってくることがある。

そうした困難を乗り越える旅の途上で、人は何度も古い自己イメージとの訣別を迫られる。神話的ジャーニーの途上でヒーローが何度も生命の危険にさらされるように。

コールの拒絶

神話的世界のヒーローたちといえども、「コール」をすんなり受け容れるわけではない。彼らは何度も繰り返し「コール」を無視し拒絶しようとする。

実人生においてもこの傾向は顕著に現われる。
私たちは何度も「コール」を見逃し、目をそらし、耳をふさぐ。
かくして変容の機会、成長の機会は先送りにされ,人は甘やかな絶望と自己憐憫とむなしさの中に取り残される。
ありがちなストーリーである。

隠喩としての神話

ジョーゼフ・キャンベルは神話を人間の内に潜む精神的な可能性の隠喩として捉えていた。

もしもあなたが実人生において何らかの変化を迫られる状況に立たされていたら、その状況を神話的世界における「コール」に見立ててみるとよい。「コール」に導かれるように実人生を生きるうちに、ジャーニーを通して自分がどのように変容すべきなのかが、理解されてくるかもしれない。

我々が理解すべきことは、私たちを神話的ジャーニーへと誘う「コール(呼びかけ)」は多様な姿を取って我々を待ち受けているということ。そして「コール」は、私たちの平和な眠りを破るようにやってくるということである。

それは人の古い自己イメージを脅かす。

誰にでも変化が恐ろしいことがある。新しい自分の誕生は古い自己イメージの死を意味するからである。

もしも、自分の本当の価値を知るためのジャーニーを生きようと望むならば、私たちに躊躇のための時間は残されていない。

「天国はいつまでも続かない」

実人生の中で神話的ジャーニーを歩もうとする旅人は、この警句を心に留めておく必要がある。必要とあらばいつでも住み慣れた楽園を後にできる潔さが求められるのだ。

古い自己イメージとの訣別が、受け容れられればジャーニーは速やかに展開しはじめる。日常的リアリティーと神話的リアリティーが重なり合うように物事が展開していくのはそんなときである。



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